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2018
11.23

理想の恋の見つけ方 28

『よう。今何してる?』

「今か?退屈なパーティーに出てるところだ。いや、退屈なパーティーに出てたところだ」

司は電話がかかって来たのを機にパーティー会場のホテルの大広間から廊下へ出ると駐車場に向かって歩き始めていた。

『そうか。その言い方だとパーティーからは抜け出したようだが、お前またパーティーか?それもお袋さんから出ろと言われたのか?』

「いや。違うそうじゃねえ。今夜はビジネス絡みだ」

『そうか。それでそのパーティーにはいい女がいたか?』

「いや。だがお前の好みかどうか分かんねえが人妻は大勢いた。唇も爪も真っ赤で猫みてえに喉を鳴らす女がいたが興味があるなら来いよ。何なら紹介してやってもいいぜ」

司は話ながら丁度目の前で開いた無人のエレベーターに乗り込むと地下3階のボタンを押し、階数を表示するパネルが点滅を繰り返す様子を見ていたが、ついさっきまで傍にいた女が付けていた香水の匂いが鼻に残っていた。

金持ちの夫がいながらそれに満足しない女達。
そして金持ちの夫を探すことが目的の女達。
ビジネス絡みのパーティーだろうが、女達にそんなことは関係ない。女達は利用できるチャンスは最大限利用して司に近づこうとする。だから司はパーティーが嫌いだ。そしてつい先日のパーティーに至っては母親が仕組んだと思える大勢の女が周りにいた。結婚する気がないという息子に業を煮やした母親の策略は分かりやすいものだったが、それでも必要以上に女が傍にいるとイライラした。


『いや。遠慮しとくわ。唇も爪も真っ赤な女は品がない。私は発情してますって言ってるようなもんだろ?つまりその手の女はヤルことしか頭にない。それに夫がいてその状態なら欲求不満も甚だしくてアバンチュールどころじゃねぇな。俺は女と付き合うなら嘘でもいいから恋を楽しみたい。それがかりそめの恋だとしてもだ。だから自分の欲求を発散させるだけが目的の女は遠慮させてもらう』

「フン。よく言うぜ。あきら、俺はお前が恋をしてるところを見たことがねえぞ。それからその女は俺らと年は変わんねえけど夫は軽く二回りは上だ。つまりそっちは役立たずの可能性もあるってことだ」

自分の親と言ってもおかしくはない年上の男と結婚すれば、そうなることは十分想定できる。年配の夫が激しく息を切らしながらコトに及んだとしても、若い妻を満足させることは出来ず欲求不満の妻は男を漁る。そんなことが常識として蔓延しているといっても過言ではないのが金持ちの世界でもある。だからそんな世界で不倫が横行しているのは当たり前だと言えばあたり前で、どこかの奥方とどこかの会社の若い部長がホテルの部屋から出て来たという話は珍しくない。そしてその逆もまた然りで有名な一部上場企業の会長が若い女とモナコのカジノにいたという話もあった。
とにかく司の世界での女は、したたかで計算高い女ばかりがいた。

『なるほど。発情した猫の夫は役立たずで妻は熱い身体を持て余してるってことか。それでその女は身の程知らずにもお前にコナかけて来たって?どうせその女の夫ってのは成り上がりのオヤジで女も銀座上がりの女だろうが教育が出来てねぇな。金がものを言う世界でもそれなりに常識があるってことを知らねぇのか。それとも余程自分に自信があるってことか。そうなるとそんな女は益々始末に負えねぇな。さすがの俺もそんな女と関わりになることだけは避けたいもんだ』

「よく言うぜ。そんなんじゃマダムキラーの名前が泣くんじゃねえの?」

その言葉はあきらに向かってよく言われる台詞だが、言われる本人はそれをどう思っているのか。だが言われて悪い気がしないことは返された言葉で分かる。

『ぬかせ。俺にだって基準ってもんがある。人妻なら誰でもいいって訳にはいかねぇんだよ。それに俺は女の心の足りない部分を埋めてるつもりだ。だから身体の足りない部分を埋めてるだけじゃねぇんだよ。寂しい人妻の心と身体の両方を満足させるのが俺のスタイルだ』

あきらはそう言って笑ったが、確かにあきらには彼なりの基準があった。
それは互いに束縛し合わない。楽しい遊び相手として過ごせる女。どちらかが飽きれば速やかに別れることが出来る女であること。そんな彼の基準に合わない女は後々面倒なことに巻き込まれかねないから手を出さなかった。それに間違っても夫と別れるから結婚して欲しいという女と付き合おうとは思わなかった。そして仮にそんな気配を感じれば速やかに別れていた。
つまり女から自分の身を守ることについては長けていて、その点については司も同様で女たちがどうにかして司と結婚しようと罠を仕掛ける前に別れていた。

「それであきら。電話をかけて来たってことは何か用があるからじゃねえのか?」

『いや、特にねぇんだが暇なら飲まねぇかって誘おうと思っただけだが、お前どうする?』

「いいぜ。パーティーで出されたのは安物のシャンパンだ。口直しに飲みたいと思ってたところだ。それでどこだ?どこに行けばいい?」

『六本木のいつもの店だ』

あきらが口にした店とは会員制のバーだが、会員になる条件が厳しいことで有名であり、尚且つ会員になるためには3人以上の既存会員の紹介が必要だったが、司やあきらは高校生の頃からそのバーに出入りしていた。

「ああ分かった。これから向かう」

エレベーターが地下3階の駐車場に到着し扉が開いたとき、そこにはSPから連絡を受けた運転手が車を回しドアを開け待っていて司は後部座席に乗り込んだ。











つくしは午後10時に電話をかけたがスマホから聞こえるのは呼び出し音だけで4度目の電話に相手が出ることは無かった。
もしかするとトイレに行っているのかもしれない。それともお風呂に入っているのかもしれない。午後10時なら相手も都合がいいはずだと勝手に決めて電話をかけていたが、それはつくしの都合であり、相手にとっては都合の悪い時間なのかもしれない。
だがこうも考えた。
それはつくしからの電話に出たくないと電話に出ないことだ。

つくしはかけたくてかけ始めた電話だったが、話をしようと言った相手は、それほど心待ちにしているという程のものではないのかもしれない。見知らぬ他人同士が他愛もない会話をしないかと言われただけのこと。だから相手にすればただ暇潰しの相手を求めたに過ぎない。だがその相手の会話はつまらないと思ったのかもしれない。求めていたような相手ではなかったのかもしれない。だからわざと電話に出ないのではないか。
そんな思いが頭を過ると10回目の呼び出し音で電話を切っていた。





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コメント
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dot 2018.11.23 08:58 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
かかって来たのはあきらからの電話でした。
そしてつくしは司に電話をかけましたが、コールしても相手は出ませんでした。
親しい間柄ではない男性に電話をかけ、その人が電話に出なければ次にかけることを遠慮してしまうような気がします。
何しろこの二人は知り合いでもなんでもありません。知っているのは相手の年齢だけで、それ以外は何も知らない人ですからねぇ。そうですねぇ。人間は一度悪い方へ考え始めるとそちらばかり考えるということになりがちですよね。
さて、つくしはもう一度電話をかけるのでしょうか。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2018.11.23 22:21 | 編集
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