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2015
11.10

まだ見ぬ恋人22

世間じゃ俺のことを怖いとか、近づきがたいとか、血も涙もない冷酷な男だとか言ってるようだが世間は俺のことを何も知らないからだ。
知ってたら俺がどんなにものわかりのいい人間で、どんなに情に深い人間で、どれだけ優しい人間だってことに気がつかないはずがない。
だから牧野、俺を好きになれ!


冗談はさておきこれから先は俺と鈍感女牧野との恋のかけ引きだな!
あきらから教えてもらったことはちゃんとメモした。
俺は姑息なかけ引きなんてしたくはないが、あきらが言うには今の俺には必要なことらしい。恋愛のかけ引きは経験値がものを言うなんてあきらは言うがキスの経験値なら俺だって相当だぞ?
あきらなんかに宝の持ち腐れだなんて二度と言わせねぇぞ!
俺はそこまで考えてから牧野に話しかけた。
「牧野、なにを探してる?」
俺の声は深みがあり素敵だとよく言われる。
魅惑のバリトンボイスだってよ。
その素敵過ぎる声で言ってみた。
「し、支社長、鉱山環境に関する安全申請の書類を探しているんですけど・・」
つくしはためらいがちに言った。
俺とのことで神経質になっているのか、かわいく唇を噛んでいる。
牧野、自分で噛むな!かわりに俺が噛んでやる!
「ここに置いておいたんですが見当たらなくて・・」



知ってる。
その書類なら俺のブリーフケースのなかにある。
「そうか・・・まいったな・・」
俺は困ったふりをした。
牧野は慌てている。
そりゃそうだろう。これから州政府に提出する書類だ。
「仕方ない・・もう一度そのデータを呼び出してみてくれないか?悪いな、俺が確認すればよかったか?」
俺のひねくれた考えをあきらがどう思うかしらないが、牧野を困らせてみたいと思った。
俺のことを上司としか思えないなら困っている牧野に寛大な態度を示してこいつの尊敬と信頼を得たい。
俺が悪かったか?のフレーズが重要だ。責任感が感じられるだろ?
他人のミスを自分も悪かったと言うことで連帯感が生まれるだろ?
オフィスラブってこんな感じで始まるんだろ?
相手の気持ちに共感してみたり、納得してみせたりするのは心理的テクニックっていうやつらしい。サンキューあきら。


司はつくしの椅子のすぐ横に立ち上体をかがめてつくしのパソコンの画面を覗き込むふりをしながらつくしの髪の毛に顔を埋めたくなる気持ちを必死で抑えていた。
なんかいいよな。このシチュエーション。
こいつの耳なんて俺の口のすぐ横にあるぞ!
チクショー。かぶりつきてぇ―。
俺の頭ん中はそのイメージが広がった。
こいつ、耳噛まれたらどうする?
やっぱり耳って感じるのか?
こいつになら俺の耳も噛まれたい。
そう思った途端、下腹部が動き出すのを感じた。
俺は牧野が何か話しをはじめた途端、頭の中にはこれまで思い描いてきたこいつの姿で一杯になった。
メイド服姿の牧野が俺の世話をしている姿だ。
俺専用のメイドだぞ?
まてよ?なんで牧野がメイドなんだ?
そんな想像を繰り広げているあいだも牧野は話しを続けていた。
いったいなにを話してるんだ?
「・・・です。支社長?」
つくしはそう言って司の方を向くと返事を待った。
「わ、悪りぃ。もう一回話してくれないか?」
俺はやっとの思いで舌を動かし、興奮が声に現れないように努めて冷静を装った。
「で、ですから、ここの・・」
話しはじめたつくしを遮るように西田が声をかけてきた。
「支社長、申し訳ございませんがそろそろ時間になりましたので」
西田が話しを続ける。
「出かけませんと間に合いません」
「まだ時間はあるだろうが。いま牧野が申請書類に・・」
そう言って司は西田のほうを向き抗議しかけた。
「そちらの書類でしたらこちらに」
西田はそう言うと手にしていた司のブリーフケースの中からファイリングされた書類の束を取り出して掲げてみせた。


ばれていたか。


その日は州政府の鉱山石油担当の大臣と会談をし、担当役人に申請書類を提出して帰ってきた。
彼らはホテルへと戻るとエントランスロビーを歩いていた。
司は振り返るとつくしが自分と西田の後ろをついて来ているのを確かめた。
つくしは数歩遅れて歩いている。


「司様、姑息な手をお使いですね?」
西田が隣で話しかけてきた。
「あ?何がどう姑息なんだ?」
司はちらりと刺すような視線を西田に向けてきた。
西田はそんな司の視線を無視して話しを続けた。
「牧野様に寛大な態度を見せる・・そしてご自分の寛容さをお示しになりたいと言うお気持ちはわからないではないのですが・・」
ため息をつき首を振っている。
「そう言うことで恋のかけ引きをなさりたいのでしたらビジネスに関係なくもう少し・・・・」
西田は言いかけて一瞬ためらっていた。
「・・・勉強しませんと」
そして少し間をおいて言った。
「せっかくのこの国での週末ですから明日は牧野様とお出かけにでもなられてはいかがですか?」
司は西田のほうを見たまま片眉を上げた。








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コメント
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dot 2015.11.10 16:50 | 編集
H*様
宝の持ち腐れ、気に入りましたか?(笑)
役に立つものを持ちながら、使わないでしまっておくことですからなんとか早く役立てて頂きたいですよねぇ。
ぜひ、早く駆使してもらいたいんですが・・(笑)
仕事ばっかりしないでそっちも頑張って欲しいです。
あ、仕事させてるのは私でしたね(苦笑)
H*様の司への応援は力がこもってますね!
コメント有難うございました。
アカシアdot 2015.11.10 23:19 | 編集
さと**ん様
姑息な手。
そこに反応して頂けるとは思いもしませんでした。
ずるい司←こんな彼も好きですか?
私もそんな彼も大好きです。
もっとずるいことをしてもらいましょうか?(笑)
司の罪のないずるさなら許せると思っています。
コメント有難うございました。


アカシアdot 2015.11.10 23:50 | 編集
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