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2024
01.11

『Love and Tenderness』更新のお知らせ

『Deception 160』話をUPしました。


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2023
11.13

思い出をつないで

「あなた、そんなことも知らないの?」

義理の母は厳しい人で何も知らない私は叱られっぱなしだった。

「駄目ね。行儀作法がなってない」

と言った義理の母の目は笑うことがなかった。

「その服はなに?下品ね。着替えてきなさい」

品のいいスーツを着たその人は隙の無い物腰で言った。

「気持を声や顏に出すのは頭の悪い人間のすること。あなたは少なくとも頭はいいはずでしょ?」


きつい言葉。
冷やかな声。
表情が変わらない無情このうえない顏つき。
これらのことから言えるのは、その女性が冷酷な性格だということ。
それにその女性は、他人が何を言おうが目的に向かって突き進むことを止めない人間であり、人の心の中に生まれる曖昧な感情というものが嫌いだ。
そして、上流階級の女性の言葉に本音と建て前というものはない。
つまりすべてが本音であるということ。
だから冷やかな声で話される言葉は、鋭い刃物となって私に斬りかかった。


女性の息子が交際相手として私を母親の前に連れて行ったのは、彼の誕生パーテイー。
会場は彼の自宅だが、招待状がなければ入れることが出来ない煌びやかな場所。
私はそんな所に着ていくような華々しい洋服を持っておらず、友人の姉から借りたドレスを着て行った。
そして母親に会わせるという彼の言葉に、私は慌てて髪の乱れを直しドレスの裾を整えた。

「あなた、どちらのお嬢さん?」

私とまったく違う世界に身を置いている女性は自分達とは違う匂いに敏感だ。

「間違った場所に間違った人がいてはお互いに楽しくないわね」

私は言われなくても自分が場違いな場所にいることは感じていた。
家柄の差というものは、彼と出会った時から感じていた。
何しろ彼の家は、都内に広大な土地を所有する資産家であり企業をいくつも経営している。
そして母親の家は華族の家柄だ。
だが彼は「お母さん。彼女は私が選んだ人です。どの世界に住んでいるかは関係ありません」と言って眉根を寄せた母親と私の間に立った。

しかし母親はふたりの交際に反対した。
そして私は彼と別れた。
それはそうしなければならない理由が生じたからだが、彼はその理由を一蹴した。
そしてポケットの中から手を出せない私の腕をつかみ、左手の薬指に指輪を嵌めた。

「結婚して欲しい」

驚いて指輪を見つめる私に彼は言った。
だが彼は私のような女にプロポーズしなくても、他にいくらでも結婚相手を見つけられる人間。しかし、私は彼を愛していたからその言葉に頷いた。
そして彼は「後悔はしないか?」と訊いた。
それは自分と結婚するということは、この家のために人生の全てをかけることになるがいいかという意味だ。
私は彼と交際を始めたとき覚悟を決めていた。
だから「後悔しない」と答えた。

そして私たちは紆余曲折を経て結婚した。
それからの私は彼の母親に認められるように努力した。
この家に相応しい人間になるように努めた。
だが夫には見逃せる欠点も、勝気な義理の母には見逃せないものなのか。
唇を噛んだことがあった。
瞳が涙で膨らんだこともあった。
不合格のスタンプをいくつも押された私は、くじけそうになった。
それでも私は負けなかった。義理の母に認めてもらうため努力を続けた。
だがある日。夫の出張中に事件が起きた。

「いったいどういうことなの?この花瓶はこの家に代々伝わる物で金銭的価値は国宝クラスよ」

私は邸の入口に飾られていた花瓶を真っ二つに割ってしまった。
それは義母から生けられている花を変えるように言われた時だった。
濡れた手で花瓶を持ち上げてしまった私は手を滑らせた。

「まったく….花を変える。こんな簡単なことも出来ないならこの家から出て行きなさい。あなたはこの家には必要のない人間よ」

義理の母に言われた、あなたはこの家には必要のない人間という言葉。
だが私は出て行かなかった。
そして言った。

「お母様。申し訳ございません。濡れた手で花瓶を持った私が至りませんでした。もし今後私が花瓶だけではなく何かを割るようなことがあれば私の手を叩いて下さい。いえ。使いものにならないこの手を切り落としていただいても構いません」










私は今、ソファに座ってアルバムを捲っていた。
貼られている写真に写っているのは結婚式の私。
白いドレスを着た私は晴れやかな笑顔を浮かべてはいるが緊張していた。
そして私たち夫婦の両隣に立っているのは義理の両親だ。

新婚旅行はヨーロッパ。
王女が新聞記者と恋に落ちた映画の舞台になった街の階段で、同じようにアイスクリームを食べた。泉に背を向けコインを投げ、また二人で来ようと誓った。
パリで一番高い丘に登ったとき、夫に勧められ名もない絵描きに似顔絵を描いてもらった。
そして夫は帰国すると、描いてもらった絵を額に入れ寝室に飾ろうとした。だが恥ずかしいから止めて欲しいと言った。
ロンドンで世界最大級と言われる大きさのダイヤモンドを見ているとき、「このクラスのダイヤならうちにもある。英国王室もたいしたことないな」と笑い「うちも博物館を作って展示するか」と言った。

ページを捲るたびに懐かしい記憶が甦る。

次に捲って出てきたのは南フランスにいるふたり。
世界一おいしいブイヤベースを食べに行こうと言ってコートダジュールの小さな村へ行った。そこは地中海に面した断崖に立つホテルのレストラン。

「ここのシーフードは生きているだろ」

と言った夫は、実は今日はこのホテルの料理長をパリのうちのホテルの料理長にスカウトしに来た。と言って笑った。

そして最後に捲って出てきたのは10代後半の私と夫の姿。
それはふたりが出逢った頃に写されたもの。
私はじっと写真の自分の顏を見つめる。
そこに写る私は派手な化粧と髪型に当時流行の最先端と言われたミニスカートを履き、踵の高い靴を履いていた。
長い睫毛に囲まれた黒い瞳はしっかりと前を見ていた。

私は勉強ができた。
そして見映えもよかった。
そんな私の家は戦後、父が事業を起こし成功した所謂成金。
だが9歳のとき父が亡くなり破産した。
それでも母は、当時私が通っていた私立のミッションスクールを辞めさせることなく通わせた。そこは、小学1年の頃から外国人教師から英語を習うような学校。だから小学校を卒業し公立の中学に入学して手にした教科書は、すでに小学生の頃に終えた内容のものでつまらなかった。

そんな私は世間に対し斜に構えていた。
やがて高校生になり、踊りに出かけた私は、そこで道明寺家の御曹司に見初められ恋に落ちた。
そして結婚しようと言われたが、彼の母親は落ちぶれた家の娘との結婚に反対した。
だから私は裕福な親戚の家に養女として入り、大学を卒業し、世界に名だたる道明寺財閥の次の当主に嫁いだ。

財閥の後継者だった彼は結婚するとき私のことを全力で守ると言った。
だが世間では、プロポーズの言葉は政治家の公約と同じだと言う。
つまり守られないということ。だがそんなことはなかった。
彼はその言葉通り私のことを守ってくれた。

そして、ふたりの息子も妻となる女性に同じ言葉を言った。
だが彼女は人生の厄介事の数々を笑い飛ばす力を持っている。
それに、ありのままの自分を受け入れ、前に進む力がある。
だから守られる必要はないと言う。
それに彼女は私と同じで芯が通っている。
だからこそ彼女は息子のいい伴侶になるはずだ。

それにしても、歴史は繰り返すのかもしれない。
何しろこの家の当主となる男は自分にはなびかない。
一筋縄ではいかない少し生意気な女が好みなのだから。

「ねえあなた。血は争えないわね」

私は写真の中の夫に語りかけた。
そのとき、ノックの音がして扉が開いた。

「楓。時間だ。そろそろ行こう。遅れたら大変だ」

今日は息子の結婚式。

「おや?随分と懐かしいものを見ていたんだね?」

「ええ。昔のアルバムよ」

「そうか。あの頃の私たちは若いな」

夫は視線を下に落として微笑んだ。

「あら、あなた。わたくしはまだ若いつもりでいます」

私は自信を持って言った。
すると夫は「そうだな。楓は若い。あの頃と変わらないよ。それに私は楓の若い頃を忘れていない」と言った。
あのとき、パリで描かれた似顔絵は立派な額に入れられ夫の執務室に置かれていた。

私はアルバムを閉じると立ち上がったが、いつかこのアルバムを息子の妻に見せるつもりだ。その時、あの子がどんな顏をするのか楽しみだ。

「さあ、行きましょうか。この家の次の当主夫妻の結婚式に」





< 完 > *思い出をつないで*
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2023
10.16

『Love and Tenderness』更新のお知らせ

『Deception 159』話をUPしました。



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2023
08.14

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『Deception 158』話をUPしました。


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2023
07.09

浪漫飛行~唇に微笑みを~

『トランクひとつだけで浪漫飛行へ In The Sky
  飛びまわれ このMy Heart 』
懐かしい曲に導かれて…..

*********







空港に迎えに来ていたのは白いリムジンのロールスロイス。
そこはパスポートもビザも要らない場所。
上着を脱ぐとネクタイを外した。
靴下を脱ぎ棄てると、靴を脱いだ。
腕時計を外すと放り投げた。
そして「よし!行くぞ!」と言った男は隣に立つ女の手を掴むと、砂浜を海に向かって走り出した。

「え?ちょ__ちょっと!いきなり__!!!」

と叫んだ女は戸惑いながらも男と一緒に走りだしたが、その足は速かった。
何しろ女は昔、追いかける男を振り切って逃げたことがある。
あのとき、足の早さは誰にも負けないと豪語した。
やがて女は男の手を振りほどき、砂に足を取られることなく男より先に波打ち際まで行った。
そして靴を脱ぐと躊躇う事なく水の中に足を踏み入れた。
するとすぐに波が足を包み込んだ。

「ねえ!早く来なさいよ!気持いいわよ!」

女は振り返り、はじけるような笑い声で言った。
だが、女が海に背を向けている間に波は突然盛りあがると、浜に襲いかかってきた。

「きゃー!この服、昨日買ったばかりなのに!」










誰もいない砂浜。
ふたりの目の前にあるのは大きく広がる眩いばかりの海。
台風のせいで昨日まで高かった波も今日は比較的穏やかだ。
だが時に大きな盛りあがりも見せていた。

「もう….あんたっていつまでたっても強引なところは変わらないわね?」

恋人は呆れたように言った。

「いや」司は小さく微笑むと「変わるもなにもこれが俺だ。それにお前も強引な俺が好きなはずだ」と言った。そして「それで?何があった?」と言葉を継いだ。

司はここ最近、落ち込んでいる恋人の姿を見ていた。
だから恋人を連れて道明寺が所有している南の島を訪れた。
ここはプライベートアイランドで、今この瞬間この島にいるのは、司と恋人と使用人だけで他には誰もいない。

「俺はお前には落ち込んでいる姿は似合わないと思っている」

「だからここに連れてきてくれたの?」

「ああ」

司は自分を見上げる恋人の頬に手を当てた。
すると唇を噛んで躊躇っていた恋人は「実は…….」と言って話し始めた。






砂浜に座ったふたり。
司は恋人の話に耳を傾けていた。

「そうか。廃刊が決まったか」

「だから違うの。廃刊じゃなくて休刊。うちの雑誌は廃刊じゃなくて休刊なの。いい?廃刊は完全に雑誌がなくなって二度と復活しないって意味だけど、休刊は継続して発行するのが難しいだけで、復刊する可能性があるってこと。そこのところ間違えないでくれる?」

「分かった。分かった。休刊な。だがどのみち、お前が記事を書いている雑誌は半年後には世の中に出ることは無くなるってことだろ?」

「うん…..社内では噂があったけど、ついにその日が来たみたい」

司の恋人は大学を卒業して新聞社に就職すると文化部に配属された。
文化部は文字通り文化的な読み物を届ける部署。政治部、経済部、社会部といった部の記者とは違い、夜討ち朝駆け、つまり事件や事故によって昼夜問わず現場に駆け付けることはない。
恋人は自分の配属先が文化部に決まると「残念!経済部だったらあんたの記事が書けたのに」と言ったが、司はそうならないように、また、恋人が危険な現場に出掛けることがないよう配属先について手を回したことは秘密だ。
そして恋人は数年経って系列の出版社が発行しているリベラル路線を売りとする老舗週刊誌の記者になった。だがその週刊誌も売り上げ部数の減少により廃刊が決まった。

「もう私ショックで…….」

週刊誌に移った恋人が名前入りの記事を書くようになってから3年。
週刊誌の読者といえば中年男性がターゲットだと言われているが、恋人が異動した週刊誌は、女性や主婦も読者層と捉え、政治や経済、難しいと言われる社会問題も分かりやすく書く事で女性の支持も得ていた。
そしてそれらの記事を書いていたのが恋人。
新聞社にいた頃の文化的な記事とは違い、様々な記事を書くことになった恋人は仕事が楽しいと言った。だからよけい廃刊が堪えるのだ。

「半年後かあ……私、次はどこに異動になるのかなあ…..」

恋人はため息をつくと、遠くに目をやった。

「どこだろうな。けど、どこに異動になってもお前は記者を続けるんだろ?」

「うん。続けたいと思ってる」

そう答えた恋人は隣に座る司をまっすぐ見た。
だから司も恋人のまっすぐな視線を受け止めた。

「それでね、結婚なんだけど、もう少しだけ待ってもらってもいい?」

結婚の約束をしている恋人は申し訳なさそうに言った。
司は早く彼女と結婚したかった。
その思いは出会った時から変わらない。
そしてその思いは恋人も知っている。
だが司は恋人の思いや考えを否定することはしない。
それに立ち止まるのも人生。
もし恋人が少し立ち止まりたいと言うならそうすればいい。
だが前へ進むのが人生。
そして運命が彼女を捕まえ司の前に連れてきた。
しかし当然ながら当たり前の愛などない。
だからこれから先、約束された喜びも、約束された哀しみも、すべてをふたりで分け合うつもりでいる。

「しょうがねぇなぁ。待ってやるよ」

「本当?」

暫く黙ってから答えた司に、恋人は安心し微笑みを見せた。

「ああ。本当だ。待ってやるから安心しろ」

司は本心からそう答えた。
それから恋人の頭に手をやり、髪の毛をクシャクシャにした。
それは恋人を安心させる仕草。
だが、同時に司自身を安らかにする仕草だ。

「ねえ?あそこに見えるコテージまで競争しない?ま。私が勝つと思うけどね?それにお腹が空いたわ」

走ることなら負けないという恋人だが、彼女が食事をしていないこと司は思い出した。
そして空には夕闇が迫ってきていた。

「ご安心下さい、お客様。このツアーには食事が含まれております」と、司は胸に手を当て、添乗員よろしくふざけて言った。

「それで?そこには私が気に入りそうなものがある?」

恋人はおどけた態度の司に面白そうに尋ねた。

「ああ。ある」

「そう?何があるの?」

コテージにいるシェフが作るのは、牛肉の赤ワイン煮やサーモンのパイ包み焼きといった膝にナプキンを必要とするもの。
だが恋人が食べたいものは、そういったものではない。
だから司は、「お前の好きなメープルの特製オムライスを作らせよう。それにとびきり甘いデザートがある」と言った。

恋人は甘いものが大好きだ。
だからふたりが行く先には彼女が好きそうな甘いものが必ず用意してある。

「ねえ。サービスはそれだけ?」

恋人の目が面白そうに輝いた。

「いいや。お前の望みを叶えるのが俺の仕事だ。俺のサービスに限りはない」

恋人を永遠に独り占めできるなら司はどんなことでもする。

「本当?それじゃあ私の望みを叶えてくれる?」

「ああ。言ってみろ」

すると恋人は司の耳に唇を寄せた。
司はニヤリと笑った。
立ち上ると彼女を抱き上げ、吸い寄せられるように頭を下げた。
唇が唇に触れると、じらすように左右に揺らした。

恋人が司の耳に囁いた言葉。
それは___
明日の朝、あんたのワイシャツに包まってベッドを占領したい。

司は今夜、胸の中のありったけの愛を彼女に注ぐつもりだ。
そんな男は一瞬、恋人の唇から唇を離した。
すると恋人は頭を起こして司の唇に自分の唇を強く密着させた。
それはまるで早くしてと言っているようだ。

かつては司がキスをするたびに顔を赤らめていた恋人。
だが今の恋人は違う。
大人になったふたりは互いの気持をぶつけ合うことに迷いはない。
互いの身体に自分という存在を、しっかりと刻みつける行為を恥ずかしいとは思わない。
そして時に恋人は驚くほどの情熱を見せることがある。
だから愛する人を腕に抱き目覚めること以上に満ち足りた時はない。
それに、身体をすり寄せて満足の吐息を漏らす恋人の姿は愛おしい。

「牧野」

司は恋人の目を見つめ名前を呼んだ。
そして唇に微笑みを浮べ言った。

「愛してる」




< 完 > *浪漫飛行~唇に微笑みを~*
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