2017
05.30

Collector 65

Category: Collector
今の二人は本来の自分たちを取り戻していた。
雨の日に別れてしまったあの頃と違い、大人になった二人は心に深く思い残すものがあったとしても、互いに伝えなければならないことは、伝えることが出来るようになっていた。


つくしは司の口から語られる言葉を静かに聞いていた。
それは、司の父親である道明寺貴の叙勲祝賀パーティーに彼と一緒に出るという話だ。
司の母親である楓からの召集令状とまでは言わないが、出席を求められたつくし。
彼女が楓に会ったのは、10年前息子と別れて欲しいと大金を持って現れたことがあったがそれ以来会ってはいない。
だがもちろんテレビや新聞、雑誌で見たことはあった。

初めて楓に会ったとき、その攻撃的な態度は、彼女がこうと決めたことは、完遂されなければならないといった硬い決意が感じられた。

息子とその恋人を別れさせるため、ありとあらゆる手を尽くす。

そして目的は達成されなければ気が済まないといった姿勢が感じられた。それは息子である司にも言えることで、つくしに対しての姿勢がそうであったように、道明寺家の人間の特徴なのだろうかと思えるほどだった。

それにしても、何故楓はつくしをパーティーに同伴するよう求めたのだろうか。
あの頃、散々嫌われ、嫌がらせを受けたというのに何故?
それは、何かが変わったということだろうか?







テーブルに並べられた料理が片づけられ、二人はソファに腰を下ろし、食後の珈琲を飲んでいた。料理は司が庶民の味と称したものが並べられ、
「相変らずおまえの料理は訳の分かんねぇものがある」
と、言いながらも箸を運んだのは、懐かしさがあってのことかもしれないが、それでもつくしは嬉しかった。そしてこれが家庭の団欒といったものであると、司が理解してくれたと思えばそれだけでも良かった。


「ねえ・・どうしてお母さんはあたしをパーティーに同伴しなさいだなんてことを言ったの?」

当時魔女だと思えた女性からの命令とも言える言葉の意味が知りたいと思っていた。
あの頃、身の程知らずと誹られた少女は、今は大人になったが、それでも投げつけられた言葉は今でも心の奥に残っていた。

「いや、俺にも理由は分かんねぇ。あの女が俺たちに何を求めてるんだか知らねぇが、おまえの身に起こったことも、俺がして来たことも全てお見通しなんだとよ・・で、おまえに会いたいそうだ。おまえ、どうする?会うつもりは無いっていうなら、会う必要ねぇぞ。それにあの女のことだ、またおまえに何か言って、おまえが俺の前から消えるようなことがあったら困るからな・・まあ、そうは言っても今のおまえがここから抜け出せるとは思えねぇけどな」


確かに二人が暮らし始めたマンションの警備は厳重だ。
通院の為外出することがあるが、つくしが一人だけで外出することは無い。
それに司がどれほどつくしのことを大切に思っているかということを、彼女自身も充分理解していた。

それにしても、つくしに会いたいと言ってきた司の母親。
その真意を測りかねていた。

「で、どうするつもりだ?嫌なら断ってもいいんだぞ?」

つくしにとって道明寺楓という人物は、計り知れないほどの権力を持つ女性だ。
元華族の家から道明寺家に嫁いで来たと聞いていた。それだけに、あの態度も納得できるものでもあるが、再び会うことを考えれば、戸惑うなという方が無理だ。
だが、今になれば楓の気持ちも理解出来た。つくしも今は何も知らない少女ではない。
道明寺財閥という巨大な企業を統率する男の妻に、ひとり息子の恋人が気に入らないと言われても、それはある意味仕方がないことだと思えた。
それに、どこの家庭の母親でも多かれ少なかれ、そう思うのはあたり前だ。

「あたし、会うわ。お母さんに・・」

無言のうちに数秒が過ぎていた。
その沈黙の意味は何なのか。

つくしは司が黙った意味が分かっていた。無理をするな。いつの日か会う事になるとしても、今は無理して会う必要はない。そう言いたいのだということが伝わって来た。
だが前を向いて歩くことを決めた。だから進まなければならない道があるなら、避けて通ることなく進まなければならないはずだ。

人は相手が自分を嫌っていることは、わかるものだ。だから嫌われているなら、嫌っているその人に自ら近づく必要はないのではないか。そう言われればそうかもしれない。だが会いたいと思った。強くなることも必要だが、人に対して優しさを持つことも必要だ。相手がこちらを嫌っていたとして、だからと言って同じように嫌う必要があるとは思えなかった。
それにまだ少女だったつくしには、大人だった司の母親について理解できなかった部分もあったはずだ。

かつて射るようにつくしを見た目には、蔑みが感じられ怖かった。
だが、道明寺楓は司の母親だ。好きな人の母親を嫌いでいることは難しい。
それにいくら楓が幼少期に息子を顧みることがなかったからといって、全く心をしめていないと言えば嘘になるはずだ。子煩悩とは言えないとしても、子供のことが全く心の中にない親はいないはずだ。

だが今でも蔑みを持って見られるのだろうか。
息子が選んだ相手が気に入らないといった目で見られるのだろうか。
でも会いたいと思った。
自分のことを認めて欲しいと思うからではない。共に10年の年月を経た今、道明寺楓という人物が昔のままなのか。それが知りたいと思った。

そして、楓の目から見える自分の姿はどうなのか知りたかった。
何を言われるとしても構わない。二人一緒に歩いて行くと決めたのだから、何を言われたとしても、受け入れるつもりでいる。

「おまえ、本当にいいのか?あの女は昔のままだぞ?思いやりとか理解とかって言葉は持ち合わせてねぇ。あの女は物事は自分のやり方でやることが当然だと考えてる女だ。・・ったく何を考えてパーティーにおまえを同伴しろなんて言ったのか知らねぇが、何か魂胆があるはずだ」

強大な力を持って財閥を動かして来た司の両親。だが父親はトップの座から降りた。
しかし楓は父親より若い50代で鉄の女は健在だ。そしてメープルの経営を任され采配を振っており、したたかな女で力がある。幼い頃からそんな女の母親としての態度など見たことなどなく、生まれて真っ先に触れたのが本当にあの女だろうかと思うことさえあった。

「それに、あの女は自分の言動が他人にどう影響を与えるかなんて頭にない女だ。つくし・・俺はまたあの女が何か言っておまえが傷つくのは見たくねぇ」

司はつくしに傷ついて欲しくなかった。
髪の毛一本でさえも。
今の彼女は決して何ものにも負けないだけの強さを持つとしても、彼にとってはダイヤモンドの輝きを持つ女性だとしても、これ以上傷ついて欲しくなかった。
だがつくしは会うという。

「・・あたしあの人に会ってみたいの。会ってあたしの今の気持ちを伝えたいの。あの頃と変わらないって・・。それにあたしね、あんたのお母さんがそんなに言うほど悪い人だとは思えないの。どんな親でも子供に対しての愛情は絶対あるから・・ただそれを上手く表すことが出来ない人もいるはずよ」

「つくし・・あの女が俺に愛情を持ってるかっていえば、そんなモン端っから無かった。それに何を考えてんだか知らねぇが、俺がこれ以上不幸になるのを見るのは忍びない・・そんなことを突然言い出した。どう考えてもおかしいだろうが。子供に対する愛情が急に湧き上がったっていうなら、それがどうかと思うのが普通だ」

つくしは過去を思い出していた。
確かに道明寺楓という女性は、我が子に対して愛情深いといった女性ではなかった。
強い女性だとは感じたが、温かみより冷たさが感じられる女性だと、人を寄せ付けようとしない頑なさを感じたことは記憶にある。
そしてあのとき、二人の間にあるものが、とてつもなく大きな川に感じられた。
決して渡ることが出来ない激しく流れる川。
そんな川の向うとこちら側では見える景色が違うのと同じで、二人には全く別の物語が用意されていたはずだ。

決して交わることがなかった二人の人生が。

だが人生は交差し、新しい物語が始まった。その物語がハッピーエンドで終わることを望むなら、物語の登場人物全員が幸せであって欲しいと願いうのはおかしいのだろうか。

「あのね、これから二人の全てが始まるなら、けじめはきちんとつけたいの。誰にだって人生の物語があるはず。お母さんにだってお母さんの人生があったはず・・だから今が昔と違っていると思わない?あたしにはそう思えるの。だから会ってくる、お母さんに」

司はつくしの言葉に顎を引き締め、厳しい表情になった。
そして言い出したら聞かない頑固な女の顔に表れたものを見た。

『お人好しだって言われてもいい。あたしは自分の信じることを信じるの』

つくしの目はそう言っていた。それはあの頃も見たことがある目。
かつて見慣れたその表情。強い意思が感じられ、言い出したら聞かないところがあった少女の凛とした眼差し。
目の前にいる女は、司には分からない何かがある。理解出来そうで出来ない何かが。
それは昔からそうだった。司の知らない何か確固したものがつくしにはいつもあった。
牧野つくしという女には_。


「・・そうか。おまえがそこまで言うんなら会ってこい。会ってあん時の恨みがあるなら言ってやれ。よくも愛しい男と引き離すようなことをしてくれたってな。俺の親だからって気にするな。まあ昔のおまえはそうだったけどな」

ニヤッと笑った顔は不遜そのもの。
本来なら余程のことがないと感情が出ることがない男と言われていた司。
だが今では、つくしの前では感情そのままが出るようになっていた。

「いいか。もうおまえは小娘じゃねぇんだ。あの頃と違う。それにおまえには俺がついてる。言いたいことがあるなら言ってこい」


あの頃と同じ傲慢さを持つ男は、立ち上り、つくしの傍まで来ると軽々と彼女の身体を抱えキスをした。
それは不意打ちではない口づけ。
愛を重ねることに躊躇はないはずだ。
無意識に開いたつくしの唇は司の唇を受け入れていた。





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2017
05.28

金持ちの御曹司~Dirty Work~

*大人向けのお話しです。
 未成年者の方、もしくはそういったお話が苦手な方は、お控え下さい。








「明日の朝6時までに仕上げてくれ」

何か不満なことがあるのかと上がる眉。
声は背中がぞくりとするほど深みのある低音。
世界的金持ちの御曹司と呼ばれ、呆れるほど金があり、第三世界のどこかの国より個人資産が多いと言われている男。
そして誰もが見惚れるほどハンサムな男。
世界的セクシーな男。

黒い癖のある髪に指を差し込みたいと願う女は数知れず、すらりと長い手足と厚い胸板を持つその身体に、老若男女問わず抱きしめられたいと思うはずだ。
事実彼は男にも人気があった。
何しろクールビューティー司様とまで言われる美丈夫だ。人気がないはずがない。
そしてその世界でも抱かれたい男ナンバーワンに名前が上がったことがある。
だが果たしてそのことを男が知っているかどうか疑問が残るところだ。


そんな男の感情のこもらない冷静な声は、翌日の朝6時までに報告書を仕上げて持って来いと言ってきた。
言った男の顔つきは、それ以上変わらない。
と、いうよりも反応を示さない。しかしその表情こそ深い意味がある。企業トップに立つ人間が、すぐに感情をあらわにすることは決していいことだとは言えない。
相手に自分の考えを読まれることなくビジネスを進めていくことが重要だからだ。
彼の立場から言えば、部下からの報告も表情を消して聞いているはずだ。そしてそのことを習慣として身に付けている。だが決して感情を出さないとうわけではない。その表情は一瞬で変わる。

女を喜ばすことなど今まで考えてもいなかった男。
女など低俗な生き物で、蔑む対象とまで言っていた男。
だが今その考えは全否定されていた。ある女性と出会い、人生観が変わった。
今の彼は献身的とも言える愛を示すことが出来る。
だがそれは人によっては迷惑な場合もある。
信じられないことだが、実際迷惑だと言われたことがあった。

男が捧げるのは、心、一途な愛、思考、そして身体。
その中でも一番与えたがっているのは、己の身体。

そして捧げたい相手の名前は・・・



司の会社の海外事業本部にいる牧野つくし。
高校時代、彼女に出会ったときの司は、一瞬で魂が結ばれたように感じていた。
ただし、そう感じたのは司だけで彼女は違った。
そこから始まった文字通り魂をかけた恋。細胞レベルの恋。細胞が彼女を求めて止まなかった。それが人生の中でどれほどの重要度かと言われれば最高レベルの重要度で、常に高度警戒態勢を保っていた。つまり、彼女がどこにいるか。何をしているか。常に司のアンテナは彼女に向けられていた。そして彼女に自分を認めてもらう為にどれだけ努力したことか・・・。
まさに司の青春は、彼女を振り向かせるためだけに費やされたと言ってもいいだろう。

そんな彼女と相思相愛となり早数年。
いつになったら結婚してくれるんだ!
そんな思いが日に日に強くなるが、その願いは未だに叶えられずにいた。


だからこそ、いつも激しい妄想が頭を過るのだが、最近妄想の幅を広げ過ぎたことに気付いた。
もっと身近なことでもいいはずだ。

だから汚い仕事をさせてやる。
そう思う男が考えたのは、新入社員の牧野つくしに、朝6時に報告書を提出させるため会社に残れと命令すること。
日の入りから日の出まで。
支社長執務室で。
俺の目の前で書き上げろ。

つまり朝まで執務室に二人きりの状態。
そして最上階のフロアは彼だけのもの。
秘書室も、給湯室も、会議室も、廊下さえも彼だけのもの。
夜の帳が下り、世界が暗闇に包まれたとき、道明寺ビルの最上階の一室だけに灯る明かり。
そこで繰り広げられる男と女のストーリー。
それはめくるめく愛の宴となるはずだ。

と、なると、頭を過るのは、上司と部下の不適切な関係その1。
司の頭の中にはいくつもの関係が思い浮かぶのだが、その1は初心にかえること。
今のこの状況で高校時代に果たせなかったといえば、夕闇迫る廊下で彼女をモノにしようとしたあの日。だがあれは確かにマズかった。いくら彼女が欲しかったとはいえ、あの行為は怖がらせた以外の何ものでもなく、ひたすら泣かれ、慰めるしかなかった。だがアレは想い出として抱きしめるとして、その記憶を塗り替えたい思いがある。

地球上に35億の男がいたとしても、彼女に触れることが出来るのは司だけ。
間違っても他の男に渡すつもりはない。
彼女が落とした書類を拾うのは彼だけ。
そして味のしなくなったガムのように捨てられることは絶対ないはずだ。
その辺の男と、数百億円の取引をまとめる男とではレベルが違うはずだ。







「・・あの、支社長。明日の6時までに・・ですか?」
「ああ。大変申し訳ないんだが、わたしは7時にはNYへ向かうんだが、その前にどうしても欲しい」
「・・そうですか・・わかりました」
つくしは支社長の為なら深夜残業も仕方がないと、自分のフロアに戻ろうとした。

「ああ、牧野さん、わざわざ海外事業本部まで戻ることはない。あそこはもう誰もいないんだろ?そうなるといくら社内だとしても不用心だ。女性ひとり広いフロアにいて何かあっては困るからね。わたしとしても心配だ。ここを使えばいい」
心配そうな口調で言われ、つくしは迷った。
「・・いえ・・でも・・」
「気にすることはない。広い部屋だ。君はあのデスクを使えばいい」

司は執務室にある普段は使われていないが、秘書が使うことがあるデスクを示した。
つくしは支社長である司がそこまで心配してくれていることに心を打たれ、やがて時間も忘れるほど懸命に仕事に打ち込んでいた。

司はその姿を見て堕落した喜びを感じたかった。

彼女は美味いコーヒーを淹れることが出来ると聞いた。
上司と部下の不適切な関係その1は変更だ。


「牧野さん。すまないがコーヒーを淹れてくれないか?」
「も、申し訳ございません」
つくしは口ごもった。
「気が付きませんでした。すぐにご用意いたします」
「いや。構わないよ。ゆっくり準備してくれ。給湯室には秘書がわたし専用の豆を用意してくれているからそれを使ってくれないか?」

司は部屋を出て給湯室に向かったつくしを見送った。
そして笑みを抑えることが出来なかった。
誰もが支社長は女に目をくれることなく、仕事ひと筋だと思っている事は知っていた。
いつも完璧な姿で仕事に挑む男としか見ていないということも。
そんな男が仕事を二の次にし、これから女とコトに及ぼうとしているなど誰も考えもしないはずだ。
だが今夜は必ず目的を達成させてやる。


司は執務室を出ると、つくしがいる給湯室へと向かった。
そして彼女がコーヒーを淹れている背中へと近づいた。
まるで獲物を狙う黒豹のように、そっと用心深く。
欲しいと思うものを目の前にし、足音を忍ばせて_。

「牧野―」
「あ、支社長。もうすぐですから_」

つくしは声をかけられ振り向いた。
途端、両腕を取られ、頭の高い位置まで上げられ、壁に押さえつけられた。
そして司に唇を奪われていた。

「・・んっ!!!」
「牧野・・俺はおまえにキスしたくてたまらなかった。おまえのその唇が開くたびにキスしたかった」

「・・し、支社長っ?!」

「俺は初めておまえを見た時からおまえが欲しくてたまらなかった。欲しくてな・・」

司はつくしの身体を壁に押し付けたまま、再び唇を奪った。
そして、つくしのブラウスに手を掛けるとボタンを外すことなく引き裂き、ブラジャーを押し上げ、胸を空気に晒した。
そして乳房を掴み、ツンと尖った乳首を掌で擦った。

「支社長!?や、止めて!・・ん・・あっ!!や、止めて・・駄目です!止めて下さい!!」

「心配するな。服なんかどうでもいい。いくらでも買ってやる」

司は再び唇を奪い、舌を使って唇を開かせ舌を入れた。
そして、泣きそうな女の舌を自らの舌に絡め、片手でつくしの両手首を掴み、頭の上に縫い付け、もう片方の手でスカートをたくしあげ、ストッキングと下着を引き裂いた。

ビリリッ!

「支社長!!ダメです!や、止めて下さい!!」

「なんでだ?俺はおまえが好きだ。おまえが欲しくてたまんねぇ・・それが悪いのか?まきの・・・おまえは俺の女になるんだ。俺と結婚しろ」
司は命令するように言った。

「だ、ダメ・・ダメです。だって支社長は・・支社長はあたしとは立場が違い過ぎます!」

「何が違う?・・ああ、そうだなおまえは女で俺は男だ。だから男と女が違うってなら、それをおまえに教えてやる」

司は疼いて早く出してくれと訴える自身を押し付け、首筋に唇を寄せ囁いた。

「どうだ?これがおまえを欲しがってる男の証だ。おまえの濡れたソコに入りたいって言うことを聞かない我儘息子だ。牧野・・なあ、濡れてんだろ?俺が欲しくて濡れてるはずだ。それが嘘じゃねぇって証拠に俺のスラックスにシミを作ってるのはおまえだ」

司は服を脱がなかった。ネクタイも上着もそのまま、ベルトを緩め、スラックスのファスナーを下ろし、ひざを使って膝を割り、太腿を押し広げ、そして壁に押し付けたつくしを持ち上げた。

「牧野、おまえはこれから俺の女になる」

濡れた襞に司の先端があたり、つくしの息が止った。

「これからおまえを奪ってやる。おまえを犯し続け、俺のモノ以外咥えさせねぇようにしてやる。俺の身体以外受け付けねぇ身体にしてやるよ。これから毎晩こうしてヤッてやる。おまえは一生俺のものだ!」

司は一気にたぎったモノを押し込んだ。

「いやああっっつ!!」

悲鳴が上がり、苦しそうな喘ぎ声がしたが、司は抜こうとはしなかった。
深く突き立てたモノは濡れた襞の中で締め付けられ、益々大きくなり、痛みを感じるほどだ。だが腰をふる前に確かめておきたいことがある。

「今俺に何をして欲しいか言うんだ・・なあ?欲しいんだろ?俺が?言えよ?俺が欲しいって。動いてほしいんだろうが。おまえのここは俺を欲しいって言ってるじゃねぇか」

本当なら深く、力強く、押して引いて、唇を舐めてを繰り返したいが、なんとか堪えていた。

「言えよ。俺が欲しいって・・動いてくれって言え。まきの・・俺に奪って欲しいって言ってくれ!!俺はおまえのことが好きだ!!」

「し、支社長・・どうみょうじ・・」

司に魅入られた女は、自分がどうしたらいいのか戸惑っていた。

「・・牧野・・心配することは何もない・・俺がおまえを一生守ってやる・・だから・・俺のものになってくれ・・」

突然変わった優しい声。そして優しい口づけ。だが我慢が出来なくなった男は、激しく腰を打ちつけ始めていた。

「おまえが・・嫌だって言っても毎日ヤッてやる。・・毎日上に乗ってやる!絶対におまえを離さねぇ!」










「・・ど、どうみょ・・じ?・・道明寺?」
「あっ?!な、なんだ?」
思わず声が裏返った司。
「コーヒー淹れたけど?」
「・・ああ。そ、そうだったな・・」
「どうしたの?ぼんやりして?」
「いや・・なんでもねぇ・・」

まさか給湯室でおまえを襲ったなんてことが言えるはずがない。
無理いって残業させている男は、つくしを目の前にうっかり妄想世界に走っていた。

「・・?変な道明寺。ねぇ、コーヒー淹れたけど飲むでしょ?」
「あ、ああ・・サンキュ・・」

だがカップを受け取ろうとした瞬間、つくしの手からカップが滑り落ち、司の太腿にコーヒーがぶちまけられた。

「・・っ!!・・あちぃぃぃぃい!!!」

「ど、道明寺!?た、大変・・火傷しちゃう。冷やさなきゃ!早く、脱いで!それ、ズボン早く脱いで!」

司の大切な部分に極めて近い場所にぶちまけられた淹れたてのコーヒー。
これは何かの罰なのか?
妄想の中、折角牧野が淹れてくれたコーヒーそっちのけで襲った罰なのか?
だが、つくしから早くズボンを脱げと言われたことに口元が緩む男。

「道明寺!!?何してるのよ?早く脱いで!脱いで冷やさなきゃ!」
「お、おおう・・そうだ。そうだな・・」

司はベルトを外し、ファスナーを下ろし、スラックスを下げた。
そして椅子に腰かけた彼の前にひざまづくように座ったつくしに、解放したい思いが叶えられそうな気がし、腰を突き出し、思わず言い出しそうになっていた。

『 そのまま俺を可愛がってくれ 』

「道明寺、ほらこれ!・・西田さんから借りてきたから・・秘書室ってなんでも置いてあるのね?」

「・・・!!」

司は言葉を失った。今度は冷えすぎたほどの保冷剤が当てられていた。
タマが、あのタマではなく、別のタマが縮む程の冷たさに声が出なかった。
・・やっぱりこれは罰なのか?
神聖なる執務室で仕事中に卑猥な妄想をした罰なのか?
仕事中に思考を脱線させたことへの罰なのか?
だが、今司の太腿に触れている手の感触は心地いい。冷たさで萎えかけたモノが立ち上がりそうになるほどいい気持だ。

だが司は学習した。
淹れたてのコーヒーが太腿にぶちまけられると非常に熱いということを。
そして本能のままに妄想を繰り返したところで本物の前には敵わないということを。
なぜなら、司の前にひざまづいている女は、心配そうに彼を見上げてくれているから。

今では愛しい人はいつも傍にいて、彼のことを心配してくれていた。
『ごめんね、道明寺』と言って。
それだけで、どんなことも許せる男。
例え火傷させられるほど熱いコーヒーをぶっかけられても、構わなかった。
そして牧野つくしの口から放たれる言葉なら、どんなことでもYESと言ってしまう男。
今の司はそんな自分に満足だった。
何しろ司は、地球上にいる35億の男たちよりつくしに優しい男でいたいから、彼女の言いなりだと言われても全く構わなかった。
それに、35億いる男になんか負けるはずがない。

だって、道明寺司は牧野つくしのことを、誰よりも愛しているのだから。
そんな男に生まれて・・・よかった!!





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2017
05.27

Collector 64

Category: Collector
母親との確執がないとは言えないが、現在進行形の敵意が存在するのは父親だ。
過去は忘れ前を向く。それを優先するなら、母親は今の状況に感謝するべきだ。
本来なら母親の戯言など、穴に向かって言えとでも言ってやりたいほどだが、初めてあの女の言葉に耳を傾けた。

にわかには信じ難い母親の言葉。

牧野つくしと一緒にパーティーに出ろ。


道明寺貴は、長年日本経済の発展に貢献した労により、叙勲にて旭日大綬章が贈られているが、楓は、その授章を祝ったパーティーにつくしを同伴し、父親に会わせなさいと言った。

貴が受賞した勲章は、経済人が貰えるとすれば最高位の勲章だ。
叙勲の受賞年齢は、70歳以上が対象とされているが、貴の場合まだその年齢に達してない。
だが最近では70歳に拘らなくてもいいのではないか?そんな声もある。
そして危険性の高い職務や精神的、肉体的に苦労の多い職務は55歳以上が対象となっているが、貴の仕事は55歳以上が対象になる職業ではない。それだけに60代での受賞は、異例ともいえる若さでのことだ。

貴はつい最近まで道明寺財閥の会長だった男だ。そして過去に経団連会長などを務めた人物だけあって、出席者は、一部上場企業の社長クラスから、政界のお歴々がごろごろいるようなパーティーになるはずだ。そんなところに牧野つくしを同伴すれば、それはまさに司の花嫁候補かと言われるはずだ。

『 道明寺財閥後継者、女性を伴い父親の叙勲祝賀パーティーに出席 』

『 道明寺司氏の婚約者か?いよいよ結婚か? 』

そんな見出しが新聞各紙を飾ってもいいということか?
そして、大きく取り上げられることは、父親に対しての牽制ともなるはずだ。







メープルの最上階にあるバーは、夜も遅い時間のせいか、混んでなかった。
男たちがいるのは一番奥のテーブルだ。他の席からは隔離されたスペースとなっていたが、3人は着いたばかりで、テーブルの上には一杯目のグラスが置かれていた。

「しかし司のおふくろさんはいったい何を考えてるんだ?」

あきらがスーツのポケットから取り出した封筒は、道明寺HDの社章が透かし模様となった封筒。中には、貴の叙勲祝賀パーティーへの招待状が入っていた。
会場はメープルでも一番大きな宴会場となっており、その規模から察すると、かなりの人数が集まるパーティーであること分かるが、道明寺楓はそんな場所につくしを同伴しろと言った。

「・・その封筒俺んちにも来てたな。・・あれだろ?牧野を会わせてあいつの良さを理解させようとしてんじゃねぇのか?」

海外から帰国したばかりの総二郎は生あくび混じりに、あきらが手にしていた封筒を受け取って、中から招待状を取り出した。

「でもな、あいつの良さっても司のおふくろさん自体が分かってねぇんじゃねぇの?だってまともに話なんてしたことねぇだろ?それになんで急に牧野と司との関係を認めようとするんだ?」

あきらはテーブルに置かれた薄めのウィスキーの水割りを口に運び、総二郎を見やった。
すると総二郎もそうだな。なんかおかしいよな。と納得し頷いていた。
気性の激しい男が好きになった女は、鉄の女からは蔑まれていた。二人の仲を応援したのは男の親友たちだけで、他に誰も味方になる者などいなかった。結果として別れる羽目になったのだが、二人に残酷な別れを用意したのは、男の親だった。

明日も仕事だとあきらは気を遣い、深酒をすることを控えているが、ある意味自由人の総二郎は、明日は関係ないと濃い水割りを口にした。

「いや。財閥の将来が不安なんだろ?親父さんが自らじゃねぇにしても、銃ぶっ放すようじゃ、どうにかしてるしな。流石に司のかーちゃんも人殺しの手伝いまでは出来ねぇってことだろ?つまりだ、司のかーちゃんの倫理基準ってのは、まともだったってことだ。・・それにしても疑惑の銃弾じゃねぇが、司の親父さんは、いくら牧野が自分の基準に合わねぇからってあそこまでするってのは異常だろ。司のかーちゃんはそれを正したいって思ったんじゃねぇの?」

「だから直接会わせて牧野の良さを理解させるってことか・・」

そんな簡単にことが済むとは考えられないのだが、それならいったい何を考えてあの父親とつくしを会わせようとしているのか。あきらも総二郎も鉄の女が何を考えているのか、と思えど分からなかった。

「それにしても鉄の女は自分の夫より、息子の方を選んだか。家も大事だが、その前に息子がおかしくなったらヤバイもんな」

「そりゃあそうだろ。夫婦ってのは結婚しても所詮赤の他人だ。子供を通して繋がってるようなもんだ。夫婦は離婚すればそれこそ即他人だけど子供は違うからな。でもあの鉄の女がいったい何がどうして息子の不幸が見てられねぇなんて言葉を吐いた?」

楓の口から出たその言葉は、司にしてもいったい何が言いたいのかと考えずにはいられなかった。元はと言えば司の不幸の始まりは、あの両親の元、道明寺の家に生まれたことから始まるが、それでもその人生の中で、一瞬の輝きとも言える牧野つくしという少女に出会ったことは、彼にとっての幸福のひとコマだった。だがその幸せを真っ先に壊そうとしたのは、母親の楓だ。

「司、おまえ、それでそのパーティーに牧野を連れて行くのか?」

バーに集まった男たちは、司の返事を待った。

「ああ、連れて行く。堂々とあの男の前にあいつと出てやる。流石に大勢の人間がいる前で何かしようってことはねぇだろ?はっきりと言ってやるつもりだ。俺は好きな女と一緒にいることを選ぶってな。それに何かするつもりなら、その場でUSBの中身を公開してやるよ」

父親を会長職から追いやり、つくしに何かすればUSBの中身を公開する。
もし仮に、政界のお歴々が溢れるパーティー会場でそんなことをすれば、貴の面目など丸潰れだ。まるで祝賀会に泥を塗るかの行為。それに祝賀どころではない。政治家官僚たちを巻き込んだ一大スキャンダルとなり、新聞紙面を飾るはずだ。それに、取り上げられることはないにしろ、やんわりと受賞を辞退しろ、返却しろと言われるはずだ。そして政治家からはそっぽを向かれ、財界の出席者もいい顔はしないはずだ。何しろどの面子も、表向きクリーンを装っている手前、非難こそすれ、同情などしないだろう。そして、これ幸いと財閥潰にかかる輩がいてもおかしくない。何しろ前例は山ほどある。どんな大きな企業だろうと、不祥事に歯止めが効かなくなることもあるからだ。そしてそこを起点に次から次へと、探られたくもない腹を探られることにもなりかねない。

「・・そうか。流石にパーティー会場で何かするってこともねぇだろうし、いいかもな。・・だけど牧野は大丈夫なのか?もしかすると両親の事故はおまえの父親が仕組んだことかもしれねぇんだぞ?」

牧野つくしの両親の事故。USBメモリを巡っての疑惑。
限りなく黒いに近い事案だ。

「・・それから狙撃の件もある・・おまえ本当に牧野を連れて親父さんの前に出る気か?」

あきらはつくしの精神を慮った。いくら過去は気にしないと言った女だとしても、自分を殺せと狙わせた男に会うことに、躊躇いがあるはずだ。

「でも考えようによれば、和解もあり得るってことだろ?意外と会ってみれば、気が合うかもしれねぇぞ?何しろ司の父親は牧野のことはよく知らねぇ訳で、ある意味食わず嫌いだろ?あいつの良さってのを知らないわけだから、おまえが分からせればいいってことだ。聞いた話だが、牧野は仕事も出来る女だったらしいぞ。それになかなか可愛いいところもある。今はあの頃のような勇ましさはねぇけど、それは逆に女らしくなったってことだろ?それにしても、よく類が手ぇ出さなかったよな?」

総二郎は軽口を叩いたつもりだが、類の名前に司の表情が変わり、口が滑ったとばかりの顔をした。

「しかし、皮肉な話だよな。最初は敵だって思ってたおふくろさんが、何を思ったのか司の味方みてぇな形でおまえが牧野を同伴してパーティーに出ろなんて何を考えてるんだか。なんか裏があるみてぇで恐ろしいな?」

あきらの言葉に頷く総二郎。
だが司は違った。

「裏があろうがなかろうが、そんなことはどうでもいい。逆にこんなチャンスを貰ったことを感謝してぇくらいだ。あの男と正面切ってケリをつけてやるよ。大勢の招待客がいるんだ。何かしようだなんて、そんな気は起こらねぇはずだ。勲章だかなんだか知らねぇが、金はあの世まで持って行けねぇけど、名誉なら抱えていけるんだからいいんじゃねぇの?さぞあの男も満足だろうよ」





牧野つくしとの未来を考えたとき、乗り越えなければならないのは、己の父親だ。
それは、破滅的な人生を歩んでいた己を解放するため、どうしても乗り越えなければならなかった。
そうしなければ、未来はないと司は思えた。
そしてそれは、つくしの為でもあった。





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2017
05.26

Collector 63

Category: Collector
人は意識的に外に見せているものと、内側は違う。
それは誰でも言えるはずだ。
人の本当の心を知ろうとすれば、相手の懐のより深くに身を置かねば知ることはない。
今までそんなことをして来たことはなかった。それは我が子に対してもそうだ。
そして彼女自身されたこともなかった。

だがそれを知ってなんの意味があるのだろう。他人に見せようとしない心を深く知る意味はなんなのか。そして、見せたくないものを、無理矢理知ろうとするのは何故なのか?
それは、多分愛と呼ばれる感情なのだろう。自分でない誰かを愛する。それが人生の全てのように思う人間は世間に多い。だがそれに囚われてしまったばかりに、人生を駄目にする人間が多いのも確かだ。そして人の心は移りやすい。いつまでも同じ人間に固執する人間の方が稀なのではないだろうか。
だが、息子は、固執した。
ただひとつの愛に。





楓は、家同士の約束で貴と結婚し、望まれていた男の子を産んだ。
財閥の中のホテル部門の経営を任されているが、司の母親でもある。
これまでの楓にとって手に負えない難題は何であったかと聞かれれば、ホテル経営ではなく、息子である司のことだった。

親のいない子供時代を過ごした息子が、一人の少女と出会った。
牧野つくしという名の少女に。そしてその少女に恋をした。
貧しい家庭に育った少女は、産まれながらに手にしていたものが何かあったのかと問われれば、親の愛情ではないだろうか。あの子の両親も少なくとも若いころは、金に貪欲とは言えない暮らしをしていたはずだ。そして、結婚したばかりの若い夫婦というのは、家族を増やす夢を見るはずだ。

家族を増やし、そしてその子供らに愛情を注ぐことが本来の家庭の在り方だろう。
だが金銭的な面での苦労が絶えない家庭だった。
あの少女は貧しい家の土に育った雑草だと自分を揶揄したが、痩せた土からでも育つ雑草は、明るく前向きに生きることを是非とし、何かいさぎよい勢いを持った少女だった。
そんな少女に大きな瞳で見返された時のことを、今でも思い出すことが出来る。

世の中にあるありとあらゆる最高の物を手にすることが出来る息子の選んだ相手は、道端の石にも等しい少女。そんな少女を好きになった息子は、それまでの生き方を変えようとした。
あの子は、司はあの頃、牧野つくしと出会ってから、意志の闘いを挑んで来た。
彼女のためなら道明寺の家を捨てていいといった態度。楓はその闘いに応じた。
そして二人の恋を終わらせようとした。だが出来なかった。

だが夫が二人を別れさせることに成功し、その後の息子は、夫の期待通りの人間として財閥のトップを担える男へと変わっていた。冷酷非情な男としてビジネスの世界を生き抜いて来た。
そして、道明寺という大きな企業を担う男には、そのパートナーとなる妻は選ばれた人間でなくてはならない。そんな考えは夫にもあった。

渡米して間もない頃、スイスの大手製薬会社社長令嬢が、司の子供を妊娠したことがあった。
産まれることは無かったが、血筋の良さでは問題ない娘だと言われていた。
あの製薬会社は多くの特許を有し縁組は願ってもないことだった。だがあの子が結婚する気がないのはわかっていた。司にとって女は性の捌け口であって、家柄がとんなに良くても、容姿が優れていても評価の対象にさえならなかった。

牧野つくし以外は。


あれからもう10年が経つ。だが息子はあの少女を忘れることがなかった。
司もあの娘、牧野つくしもあの頃の想いを抱えたまま大人になり、再会した。ただし、その再会の方法は問題になりかねない犯罪行為だ。
牧野つくしを監禁し、彼女に子供を産ませようとしていた。異常とも言える行為は、気が狂ったとしか言えなかった。まさに狂気とも言える恋だ。

世田谷の邸の地下に監禁した牧野つくしに会おうとしたが、会う事は出来なかった。
あれから息子の行動の報告を受けていたが、牧野つくしを世田谷の邸から山荘に移し、度々訪れていたのは知っている。
そんな中、彼女は狙撃された。
そしてそれから司のあの娘に対する気持ちは変わっていた。

息子の人生の重要なページといったものが、10年前、二人が共に過ごした短い時間だとすれば、この10年の人生は、破り捨てたいはずだ。

あの子にとってのこの10年はいったい何だったのか。
あてのない虚無の世界を漂っていた10年だったのかもしれない。
それは、支配者の配下にある場合のみ生存出来る世界。
道明寺財閥という巨大な支配者の下にいた男の10年だったはずだ。







帰国した楓は数日後、司に会う約束を取り付けた。
親子であれ、どちらも忙しい身分。実の息子であっても、秘書の頭越しに本人と会う約束を取り付けることは出来なかった。そしてそれは、ともすれば時間を割くつもりはないのかと思えるほど待たされた末の面会だった。


「いったい何の用があってわざわざ東京くんだりまで来たんだか知らねぇが、あんたのその顔は何でもお見通しって顔だな」

社長執務室に現れた母親に対し、冷やかな声の開口一番がその言葉。
司は執務デスクの椅子に腰掛け脚を組み、煙草を吸い、楓を睨みつけていた。
どんなに離れていても、その女性から漂ってくるのは、揺るぎない自信と気高さ。
普通の親子関係ではない二人の間に流れる空気は冷たく、緊張感が感じられた。

司は数ヶ月前、世田谷の邸を訪れた楓に会っていたが、目の前にいる母親が何をしに来たのかとは問わなかった。
つくしが銃創を負い、そして一緒に暮らし始めたことが、知られているのは当然のこと。今まで何も言ってこなかった方が不思議なくらいだ。
だが彼が言いたいことは決まっていた。

「あんた、あいつが銃で撃たれたこと知ってたんだろ?今まで何も言ってこなかってことは、知ってて高みの見物ってところか?あんたもあいつが死ねばいいと思ってた口か?それにあんた知ってんだろ?誰があいつを狙わせたか。それともあの男が失敗したから今度はあんたが何かするつもりか?・・あんたらどこまであいつが気に入らねぇって?」

牧野つくしが五月蠅い虫のようだと、目をくれようともしなかった。
いつも自分たちの仲を邪魔してきた母親が、今度はいったい何をするのか?
そう考えるのは当然だ。そして次に口を開いたとき、母親の口から放たれる言葉は決まっているはずだ。

『そのとおりよ。気に入らないわ。あんな女とは別れなさい』と。

「黙ってねぇで言いたいことがあるなら言えばいい。その為にここに来たんだろ?あんたもあの男も、牧野つくしに対して気に入らねぇことばかりだろうからな」

久し振りに会った母親だとしても、喜びなど微塵もない刺々しい冷淡な態度。
人を威圧する態度はどちらもそうだが、司のその態度は、楓の上をいっていた。

「司。聞きなさい。わたくしは何もするつもりはないわ。それにもしあれが、あの人の指示だとしても、わたくしは関与などしていません」

何もするつもりはない・・
以外な言葉に司は耳を疑った。

「信じられねぇな」

「わたくしは良い事だろうが悪いことだろうが嘘は言いません」

「フン。どの口が言ってんだか分かったもんじゃねぇな。あんた、10年前あいつに対して何をしたか忘れたわけじゃねぇよな?」

10年前、まず二人の交際に反対し、仲を裂こうとしたのは母親だ。
身分が違う、氏素性の知れない貧しい家庭の娘など言語道断だと切り捨てた。
司の姉は、親が決めた相手と結婚した。相手はロスに住む大金持ちの男性で、利害関係が一致し、メリットがある相手だ。それは戦略的な婚姻。そんな結婚は、司の住む世界ではあたり前のこととして受け止められていた。

それに対し牧野つくしは、財閥に利益などもたらさない貧しい家の娘。絶対に認めるわけにはいかないと、楓は言い放った。

それから二人の交際に対しての妨害が始まった。やがて母親の手に負えなくなれば、父親が乗り出して来た。将来の財閥当主の運命に道端の石は関係ないと、つくしの周りの人間にまで怒りがぶつけられることになり、金に目が眩んだ女が司を捨てたといった印象を与えると、女に対し憎悪を植えつけることをした。そしてそのことを信じた男は、彼女を憎みながら生きてきた。我が子の心を捻じ曲げるあの男の行動が、果たして父親と言えるのだろうか。
平気で我が子の恋を打ち砕く、冷淡な男に対する今の感情は、憎悪以外なにものでもない。



楓は司の問いに答えなかった。
だが別の言葉が口をついていた。

「あなた、あんなことをしたのが自分の父親だとして、今後もその男とかかわりたいと思うかしら?それにその家族との関係はどう考えてるのかしら?」

「その家族ってのが自分のことを言ってるなら、俺には家族なんて初めからいなかったんだ。かかわりもなにも関係ねぇんだわ。それにあの男にこれ以上かかわるつもりはない」

「そう。わかったわ。では正直に言いましょう。流石に今回のことは、正直驚きました」
貴のとった行動は、楓の理解を越えていた。
「まさかあの人が・・牧野さんを殺そうとするとは思わなかったわ。・・もちろん、USBメモリのこともあるでしょうけど、わたくしは道明寺楓であり、企業人であるけど、あなたの母親です」

楓の口から出たあなたの母親といった言葉。
司にしてみれば、今更優しい言葉をかけたりする行為は通じない。

「たとえあなたがわたくしとの血の繋がりを否定したくても、あなたはわたくしの血を別けた子供です」

父親も同じことを言った。
おまえの身体はわたしの血で出来ていると。

「司・・あなたはあの人の血だけを受け継いでいるわけではないわ。わたくしの血も受け継いでいる。こんなことを言っても今更だと思うかもしれないわね。でもあなたがこれ以上不幸になるのは見たくないわ。・・あなたはわたくしがお腹を痛めて産んだ子ですもの。それにあなたの父親は、あなたとは血の繋がりがあってもわたくしとは血は繋がってない。わたくしとあの人は、所詮他人・・。一番近いところにいる他人よ。わたくしの言いたいことは分かるかしら?」

夫は他人。
だが家族。
家族の定義とは、いったいなんであるのか?
子はかすがいという言葉はあるが、道明寺楓にとって貴は単なるビジネスパートナーだ。
その貴が取った行動は、あまりにも常軌を逸している。牧野つくしを殺そうとするなど、財閥の会長であった男が考えることではないからだ。それにもし、牧野つくしに何かあれば、司自身が壊れてしまうかもしれない。そんな想いが感じられるようになったのは、司がつくしを失いそうになった時の状況を聞かされたからだ。手に入れた彼女を再び失うことになれば、今度は後を追ってしまうのではないか。そう感じさせる何かがあった。
そして、息子が自分の父親を殺めてしまう恐れがあると感じていた。楓とて我が子を犯罪者にしたくない。

「・・俺のことを不幸だなんてよく言えるな?てめぇが不幸の元凶を作ったんだろうが」

道明寺の家に生まれ堕ちたことが不幸そのものだ。時を戻せるものなら、ごく普通の少年時代が送れる環境に生まれたいと願う。この数ヶ月、そんな気持ちに何度も陥った。過去を振り返っては、自分の生きて来た人生を考えた。いったい自分はこの10年何をして来たのか。

「司。牧野さんのこと・・そうね、女性としてデリケートな問題を抱えているのは知っています」

いきなり母親の口から語りだされた言葉。
司はどうして知っているのかとは聞かなかった。
財閥の病院へ入院していれば、医療記録を手に入れることは簡単だからだ。

「卵巣がひとつしかなくても妊娠は出来るはずよ」

「・・あんた、いったい何が言いたい?まさか俺とあいつの結婚の仲立ちでもしようってか?」

楓はいったい何が言いたいのか?
まさかとは思うが、母親として己の息子に懺悔でもしようとしているのか?
喜怒哀楽を表情に乗せることなど滅多となく、能面のような顔をした女が母親であり、感情などない鉄の女。その女がいったい何を考えているかなどわかるはずもないのだが、その口から語られる言葉に耳を疑った。

「赤ん坊が生まれると言うことはそれだけで周りを変えることが出来る。赤ん坊が生まれると奇跡が起こることがあるわ。すべてが許される・・そんなことがあるの。それを起こすことが出来るのは母親しかいないわ。今度メープルでパーティーがあります。それに二人で参加なさい。そしてあの人に・・父親に、彼女を会わせなさい」





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2017
05.24

Collector 62

Category: Collector
*性的表現があります。
未成年者の方、もしくはそういったお話が苦手な方は、お控え下さい。









全てを浄化したように抱き合ったあの日。
バスルームから出て来た彼女を再び抱いた。
身の丈に合わないバスローブを着た姿が、頼りなさげな子供のように感じられ、すぐにでも抱きしめ守ってやりたいと、司はつくしの目だけを見て気持ちを伝えた。

こっちへ来いと_。

言葉は口にせずとも、思いが伝わることが、今の二人にはあたり前のことだと感じていた。シャワーの湯で温まった身体は柔らかく、司と同じ香りのするその肌が、彼の求める全てを与えてくれた。
それは、司にとって最高の贈り物だ。求めて止まなかった女の、身体の最奥の柔らかな襞に包まれることが、どれだけ幸せなことか。

司は、つくしを膝の上に乗せ抱きしめた。
自分の思いを伝えるために。


「・・つくし・・ひと晩中でもおまえが欲しい。どんだけ抱いても抱きたりねぇ。俺が過去に抱いた女は、おまえを抱くための予行演習だ・・まあ羽目を外し過ぎたこともあったが・・俺にとって他の女なんて女じゃねぇから気にするな」

司の言い訳とも取れる言葉。
かつて、青いと言われた男に濃密に愛されたつくしは、頬を染め、思わず口にしていた。

『あの・・どのくらい・・これまで・・その・・』

何人の女性と経験をしたのか?
考えがつい口に出てしまう女は、聞くべきことではないと思いながらも、高校生の頃とあまりにも変わってしまった男に聞いていた。だが、やっぱり答えなくていい。と慌てて言葉を継いだ。

好きな男の過去の女性関係を聞くことは、勇気がいることだ。10年間、新聞や雑誌の記事からある程度は知っていたとはいえ、司のようにハイスペックだと言われる男の過去は、詳しく聞かない方がいいかもしれない。

「・・要するにあれだ・・今までの経験は俺の為じゃなくて、おまえの為だったってことだ。・・だいいち俺がおまえ以外で満足するわけねーだろうが」

脛に傷を持つ自覚のある男は、言うべき言葉を探し、これまでの女性関係を答えにくそうに答えたが、バスローブの内側に滑り込まされた男の手は、脱がせることだけを考えていた。

「なあ・・もういいじゃねぇか・・おまえ過去は気にしねぇって言っただろ?」

確かにつくしはそう言った。
過去は過去。気にしても仕方がないと。

「つーか、気になるってなら、俺が今から気になんねぇようにしてやる」

昔からぐだぐだ考える癖のある女に考える暇を与えてたまるか。俺の愛を疑うのか?
司はそんな思いから、大切な宝物を包んでいるバスローブを脱がせ、身体を持ち上げ、腰を跨がせ、シャワーの湯と体温でぬくもった場所に、たぎった性器を挿し込み、座ったまま下からゆっくりと突き上げ始めた。

「や・・あっ・・」

腰を跨いだ身体をグッと引き寄せ、柳腰を掴み、ゆったりとリズムを刻む。
繋がった二人の間に指を差し入れ、尖った花芽を擦り、大きく膨らんでくるそれを摘まむ。

「・・おまえのココ・・かわいいな・・それにすげぇ濡れてる・・」

「ああっ!・・・つ、つかさ・・」

前へ、後ろへ、大きく揺れる身体が不安定なのか、しっかりとしがみつき上げた声は、素直に名前を呼ぶ。
10年前、名前を呼ぶだけで顔を赤らめた少女。
だが、今は愛する男の名前を素直に言えた。

より深い所で結び付こうと、ベッドに押し倒し、ぐっと腰を突き入れた。
奥まで激しく突かれた女の身体が、ベッドの上へと上がるのを掴み、再び激しく突き始めた。
やにわに行動に出た男に、割れ目から溢れ出した蜜が、滑らかに性器を呑み込むのを手伝っていた。

「つくし_」
突き上げ唇にキスをし、出してもう一度突き、
「俺はおまえを_」
突き上げ再び唇にキスをし、更に最奥まで突き、
「二度と_」
さらに激しく突き上げると、唇に噛みつくようにキスをした。
「離さねぇから・・」

しっかりと身体を掴んでいなければ、身体が跳ね上がってしまうほどの強い突き。

「ああっ・・ああっ・・あん!!」

その激しさにあえぎ声は高く上がった。
激しくすればするほど、高く上がる声。
その度に、形のいい胸が揺れ、内部が引き締まって襞が性器に絡み付き、蜜が溢れ出る。

「それに・・俺はおまえ以外の女なんて必要ねぇから」

腰の高さを変えると、さらに激しく突き始めた。
挿れて、濡れて、出して、そして挿れて・・・
抜き差しするたび立つ卑猥な水音と、蜜に濡れた性器がヌラヌラと出入りする様が、視覚を刺激し、腰の動きを早めていた。

容赦のない激しさで子宮の中を擦り、ヌメリを出させ、既に先端から溢れ出したものと混ぜ合わせ、中へ注ぎ込む。息があがり、空気を求め喘いでも、突くことが止められない。永遠に繋がっていたい。そう想い狂ったように求めてしまうのは、10年会えなかった想いだ。

腰を掴む手に力がはいり、痕が残るかと思えど、我慢できなき欲求を抑えることが出来ずにいた。挿し込まれたものが、何度精を放っても、新しい欲求が湧き上がって来て、止めることは出来ない。それは過去の愛と未来への愛。
司は、つくしの肌がバラ色に染まり、意識が朦朧とするまで愛することを続けた。

「・・俺は・・大バカ野郎だった・・けどな・・そんな俺はもういねぇ・・俺には、おまえだけだ」


司にとって大切な女性へ注がれるのは強烈な愛。
激しい性格と言われる男の愛し方は、共に壊れるまで愛し合いたいといった思い。
囁かれる言葉は疑うことなき真実。
過去が気になるなら、気にならなくなるまで愛してやる。
しつこいくらいに愛してやる。
何しろ俺はしつこい男だからな。これから先も永遠にしつこい男でいてやる。
それに俺はおまえのものだ。
おまえが俺のものであると同じで、俺のものは何もかもおまえのものだ。
こんな俺でも受け入れてくれるなら、永遠に傍にいてくれ。
高い場所から飛び降りろと言うなら、一緒に飛び降りてやる。
橋を渡れと言うなら、一緒に渡ってやる。
渡れない橋はない。渡れない橋があるなら壊してやる。
だから永遠に一緒にいてくれ。
穢れてしまった人生の中で、唯一穢れてないのはおまえだけだから・・・

歯を食いしばり、なお一層力を込め、押し込むことを止めない男はしっかりと腰を掴み、つくしを見た。

「俺を見ろ・・。俺を見てくれ。・・俺を受け入れることが出来るのはおまえだけだ・・」

パッと見開かれた大きな瞳が司を見た。
そして、彼の名前を呼んだ。

「つかさ・・愛してる・・」
「俺も・・・つくし・・」

互いの名前を叫び、何度も絶頂を迎え、言葉通り夜が明けるまで離しはしなかった。









こうして、あの日から愛し合うことを止めることは、なかった。
だが、今はあの男のことを考えなければならない。
司の取った行動が跳ね返ってくるのは、彼女だ。
それはあの頃からいつもそうだった。好きになったのは司の方だというのに、責められるのは彼女。そんな彼女をどんなに守ろうとしても、当時高校生だった男の使える力など限られていた。だが今は違う。
もうこれ以上、傷ついて欲しくない。

司が社長執務室に帰社したのは、夕方近くになってからだ。
高層ビルのてっぺんから見える景色は、春を過ぎ、陽射しの長さが感じられる季節になろうとしていた。周囲の建物を見下ろすほどの高さがあるビルは、当時の社長だった司の父親が建てたビル。それは、肥大化する財閥の象徴と言われていた。

その男は、血統を重んじるといい、競走馬の話でもするように息子のことを語る。
道明寺に相応しい娘と結婚して子供を作れ。牧野つくしが好きなら愛人にしろ。
その言葉で浮かんだイメージが司の頭の中を過った。

それは二人の間に出来た子供を抱くつくしの姿。過去、NYで一度女を妊娠させたことがあった。あれは若さゆえの過ちと今なら言える。子供は生まれてくることはなかったが、あの時の女が生んだ子供ならあの男は認めただろうか?
相手はどこかの会社の社長令嬢だったか・・
それすらももう記憶の中から消えようとしていた。それに今となっては終った話しだ。

あの当時父親になるなど考えたこともない。仮に父親になったとしても、自分と同じDNAを持つ生き物程度と思ったはずだ。父親の見本となる男がいないのだ。そんな男が親という立場を理解することは、無理だったはずだ。

だが人生に親の存在がなくとも、人間は成長するが、目に見える世界に、幻滅だけが重ねられた幼少期だった。どの世界が正常であるかなど分かるはずもなく、家庭の温かさといったものに無縁だった男が、思考の中に子供の存在が描けるはずがない。

だが、今は描くことが出来る。
彼女との間に出来た子供を描くことが出来る。自分が与えられなかった家庭の温かさ、家族の温もりといったものを子供に与えてやりたいと思う。

人間は勝手な生き物だな、と思わずひとりごちる。
つくしと愛し合うようになるまで、良心の呵責も道徳心も持ち合わせていなかった男の、まさに身勝手とも言える思い。
だがそう思えるのも、人の心は、何一つとして予想することが出来ないからだ。

自分の子供を抱いている彼女を、思い浮かべることが出来る。
子供が産めないかもしれないと言ったが、卵巣が片方しかなくても、子供を産む事ができる。
それを証明してやりたい。そんなことで悩むなといってやりたい。
例え子供が出来なかったとしても、それでも構わない。
彼女と一生過ごすことが出来るなら。






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